留学便り

海外留学

山田満稔(平成14年卒)
山田朝子(平成17年卒)

The New York Stem Cell Foundation Research Institute, New York

私は、産婦人科に入局して臨床研修大学院での研究生活レジデントおよび生殖アドバンストコースにて不妊診療に携わった後、2014年1月よりニューヨーク州にあるThe New York Stem Cell Foundation Research Institute (以下NYSCF)において、Postdoctoral Fellowとして留学させていただいております。大学院生時代は浜谷敏生講師のご指導のもと、独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 生殖・細胞医療研究部に国内留学させていただきました。成育では再生医療センター センター長、生殖細胞研究部部長の梅澤明弘先生ならびに阿久津英憲同室長にもご指導いただき、新規遺伝子Hmgpiが初期胚発生における遺伝子発現制御を司り、着床周辺期胚発生および胚性幹細胞の樹立に関わることを明らかにしました。留学先においてもリプログラミング機構および不妊症のメカニズムの解明を目指して研究を続けています。慶應義塾大学産婦人科学教室は国内、海外問わず開かれた環境で、様々な医師・研究者達と知り合うことが出来ました。こうしたご縁に導かれて、多くの刺激をもらいながら研究に取り組む事ができ、自分一人ではとても成し遂げる事のできない仕事にも携わるチャンスに恵まれています。ここからは私の留学生活を紹介させていただきます。

私が在籍しているラボNYSCFは2005年に設立され、今年で創立10周年を迎える比較的新しい研究組織です。幹細胞研究を通して様々な疾患への治療法の開発をより迅速に推進することを目的に、世界中から集まってきた約50名の研究者が日夜研究に勤しんでいます。ボスのDieter Egli博士はシニアリサーチフェローとしてNYSCFを率いており、これまでに核移植法を用いて、ヒト卵子が体細胞核をリプログラミングする能力を有することや、ヒト卵子の変異ミトコンドリアDNAを置換することでミトコンドリア病の遺伝を防ぎうることを報告するなど、まさに世界をリードする気鋭の研究者といえます。「みなが捨ててしまうサンプルにもたくさんのデータが詰まっている」を口癖に、発生停止した胚も免疫染色やアレイによる詳細な解析を行って、なぜ発生停止したのかをその都度観察し、データにまとめています。ノートの取り方にも細かく指示があり、米国に来て以来基礎からやり直していますが、そのおかげで以前ならば見逃していた思わぬ発見に驚かされることもたびたびです。最近、ヒト卵子を用いた体細胞核移植により成人の1型糖尿病から2倍体の核移植ES細胞を樹立し、さらにインスリン産生能を有するβ細胞へと分化させることに成功し、その成果を英国科学雑誌のNature誌に発表いたしました。ヒト卵子を用いた体細胞核移植は胚性幹細胞と同等の能力を持つ多能性幹細胞の樹立を可能とし、将来的には疾患モデルの作成および免疫拒絶されない細胞治療への応用が期待できると考えています。

ニューヨークといえば、皆様ご存知のとおり全米一の大都市であり、ブロードウェイにあるミュージカルをはじめとしたエンターテイメントと観光の街としても知られております。さぞかし華やかで楽しい日々が待っていると思いきや現実は甘くなく、週末含め実験に追われる毎日が続いています。マンハッタン島内は住宅費が高価なため、ニューヨークからジョージワシントン橋を渡ってすぐのニュージャージー州フォートリーに家を借りて生活しています。研究所はコロンビア大学医学部のキャンパス内にあり、セントラルパークやハーレム地区のかなり北側に位置します。この166 street近辺は治安があまり良くなく、留学した当初は短い距離も歩くのが恐ろしく、走って研究所に通っていました。車での通勤をしようにも周囲にはほとんど駐車場がなく、さらにはマンハッタン島内に車で入るには毎回13ドルの通行料を徴収されてしまいますので、現在はバスで通勤しています。

ニュージャージー州はgarden stateといわれるほど緑が豊富で、empire stateといわれるマンハッタンから橋をひとつ渡るだけで雰囲気ががらりと変わります。フォートリーはこれまでに日本企業の駐在員が多く暮らしてきた経緯があり、日本人にはかなり住みやすい環境です。私たちの住むアパートには桜の木が植えられており、4月末には美しい満開の桜が日本の春の風景を思い出させてくれます.コロンビア大学に留学する日本人留学生も多数居住しており、昨年末には一期先輩の門平先生ご夫妻も近所にご留学されてきました。そんなわけで週末ともなると仲間で集まってバーベキューを楽しむ事ができ、とても良い息抜きになっています。また、パン屋やラーメン屋のほか、15分ほど車を走らせれば全米でも最大規模の日系スーパーMitsuwaがありますので、幸いにも食に困る事はほとんどありません。しかし、食材の値段は日本のほぼ2-3倍し、みょうが1パック500円では買うのに相当勇気が要ります(ので、買えないでいます)。

マンハッタンの緯度は青森とほぼ同等であり、寒冷な気候であることは渡米前から覚悟しておりましたが、それでも冬の長さと厳しさは想像以上でした。今冬の20年ぶりともいわれた大雪により、我が家の車は2回も窓ガラスが割れてしまいました。しかし冬が長い分、春の訪れの喜びはまたひとしお、木々の芽吹く音さえ感じるほど生命のエネルギーに溢れています。夫婦の唯一無二の楽しみであるメジャーリーグベースボールも開幕し、今年は楽天イーグルスから破格の契約で移籍してきたマーくんこと田中将大投手(こちらのヒトはタナーカと、"ナ"にアクセントを置いて発音します)がニューヨークヤンキースで大活躍して我々を熱狂させてくれています。米国での仕事や生活はままならぬ事も多くありますが、東海岸特有の四季のうつろいや折々のイベントを楽しみに、留学の時間を大切に過ごしています。

最後になりますが、この留学にあたりお力添えと貴重な機会を与えていただいた吉村泰典名誉教授、青木大輔教授、久慈直昭東京医科大学教授、浜谷敏生講師、成育医療センターの梅澤明弘センター長、阿久津英憲室長に深謝致します。また、暖かく見送ってくださった教室のみなさま、お世話になったすべての方々に御礼申し上げます。

2014年4月