研究

海外留学

小澤伸晃(昭和63年卒)

British Columbia Research Institute for Children's & Women's Health

私は2004年12月よりバンクーバーのブリティッシュコロンビア大学の研究施設で研修をさせて頂いております。バンクーバーはカナダの西海岸に位置し、日本より最も近い北米の都市であり、気候も温暖で多くの旅行客が訪れる風光明媚な観光都市です。海と山に抱かれた街は自然と美しく調和しており、ビクトリアやウイスラーあるいはカナディアンロッキーといった世界でも有数な観光地が周辺には控えています。

 今回留学先としてこちらを選んだのは、ブリティッシュコロンビア大学遺伝学教室のロビンソン教授の主宰するラボで行われている生殖遺伝学に対する研究に以前より大変興味を持っており、いつか時間が許せば環境も素晴らしいこのバンクーバーの地で研究生活を送ってみたいという漠然とした思いがあったからです。ロビンソン教授は胎盤性モザイク、トリソミーあるいはX染色体の不活化などに対する研究により、これまでに非常に多くの論文を残されています。生殖や周産期を専門として臨床を行っている自分にとって血液、流産絨毛や胎盤といった臨床検体を用いて行われる研究方法は大変魅力的であり、将来に必ず応用できると考えました。また研究施設はカナダの代表的な母子センターと隣接して存在しており、臨床に関連したカンファレンスなどにも出席することが可能となっています。現在自分の勤務する国立成育医療センターも病院と研究所が隣接した非常に良く似た形態をもっていることから、相互の協力体制や医療システムなどを見聞することも有意義であると考えました。

 ただ実際に留学生活を始めてみると、多くの人が経験することかもしれませんが、コミュニケーションをはじめとしていろいろなことが思うようにはいかず、次から次へと煩雑な手続きが多く嫌気がさすことも確かにあります。日本で契約したブリティッシュコロンビア大学のキャンパス内にあるアパートも家具など必需品が全く備わっておらず、カーペットも所々に染みがあるような状態でした。毎日のようにオフィスに出向いて苦情を言いに行ったり、買出しに遠くまでバスに乗って行ったものでした。自分が留学生活を始めた12月はバンクーバーではもっとも天候の悪い時期なようで、ほとんど毎日が雨で観光地のイメージとは程遠い感じで、バスを待つ停留所で冷たい雨にうたれて重い荷物を持ちながら凍えそうになったことが思い出されます。またバンクーバーには日本人も多いとの話でしたが、こちらに来て驚いたことは中国、韓国あるいはブラジルといった他国からの移民者が非常に多いということでした。そのため多くの人が二ヶ国語以上に堪能であり、自国の人たちとは自国の言語を用い、共通のコミュニケーション言語として英語が存在していました。日本語しか喋れない自分は英語や中国語、フランス語が飛び交っている中でただ一人蚊帳の外といった感じで、今では多少は慣れましたが初めは大変情けない思いをしたものです。

 早いものでもう半年くらいが経過しようとしています。今年の冬は二回ほど大雪が降りましたが、春の訪れは早いのか2月中旬には桜も咲き始めました。そして日照時間が日毎に長くなり最近では夜9時近くまで明るいままで、晴れた日には陽射しも強くサングラスや日焼け止めの必要性を強く感じます。自宅の近くにはダウンタウンも一望できるビーチがありますが、週末にはバーベキューやマリンスポーツを楽しむ多くの人々で夜遅くまで賑わっています。また街中の至る所で色とりどりに花が咲き誇り、緑いっぱいに包まれた景観は本当に見事であり、穏やかなカナダ人の気質にも触れながら環境の素晴らしさを実感しています。研究所の方も幸か不幸かだんだんと忙しくなり、案外に自分自身のゆっくりとした時間が持てないことが悩みの種ですが、貴重な機会に恵まれたことに感謝しながら、残された留学生活を有意義に過ごしたいと考えています。

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