研究

海外留学

宮越 敬(平成4年卒)

Division of Reproductive Sciences, Oregon National Primate Research Center, Oregon Health & Science University, Portland

 私は、2004年4月よりオレゴン州にあるNational Primate Research Centerにて生殖内分泌学の基礎研究に従事しております。Oregon National Primate Research Center(ONPRC)はオレゴン州最大の都市ポートランドの近郊に位置し、全米に8施設あるPrimate Research Centerの1つです。この研究所は1962年にOregon Regional Primate Research Centerという名称で設立され、1998年にはOregon Health & Science Universityの研究機関の1つとなりました。その後、2002年にNIHによりONPRCという名称に変更されました。この研究所では、サルおよびマウス・ラット(総計約3000匹)を用いてreproduction、neuroscience、pathobiology/immunologyに関する研究が行われていまホームページを見ていただくと研究内容を詳しく知っていただくことができます)。
研究棟は林の中に設立されており、周りには野生のリスやシカも生息しております。また屋外コロニーでは数百匹のニホンザルがBehavioral researchを目的として飼育されており、その規模の大きさに驚きました。

 私自身は、慶應義塾大学病院および関連病院での研修・専修ののち周産期研究室に所属し、超音波による胎児診断を中心に周産期の臨床に従事してきました。しかしながら、卒後10年が経った頃から、「周産期以外の分野も勉強してみたい」「いままでとは違った環境で生活してみたい」「実験に関する基本的な考え方を学びたい」という思いから留学(遊学?)を考えるようになりました。そして今からちょうど2年前に当研究所のDivision of Reproductive Sciencesに赴任されたDr. Henneboldがpost doctoral fellowを募集中であることを知り、今回留学の機会を得ることができました。Dr. Henneboldは田中守先生(産婦人科学教室講師、周産期研究室代表)がユタ大学に留学していらっしゃった時の共同研究者にあたります。具体的には、suppression subtractive hybridization法という組織間の遺伝子発現の差異を検出する手法によりDr. Henneboldが見出した卵巣に選択的に発現するproteaseに関する研究を行っています。とはいっても、第一の問題点は語学力です。こちらでの生活も半年が過ぎましたが、相変わらず自分の言いたいことがうまく伝わらず四苦八苦しています(2年間の留学期間が終了しても語学レベルは同じような気もします)。今まで読み書きの英語にしか接してこなかったことが悔やまれてなりません。また、分子生物学的手法を用いた実験を行った経験がないこと、タンパクの合成って??(医化学はほとんど覚えていません)という状況も加わり、悪戦苦闘の毎日です。しかしながら、今年40歳になられたばかりのDr. Henneboldの直属の部下はテクニシャン2人と私だけであり、些細なことでも気兼ねなく質問できる環境には満足しています。Dr. Henneboldは驚くほど真面目な方であり、先日御自身の研究ノートをお借りした際に最初のページが目次になっているに気付きました。研究者としては当然のことなのかもしれませんが、ノートの書き方から見習わなくてはならないと感じました。

 オレゴンといえば、かつてテレビで放映された「オレゴンからの愛」という番組を思い出される方もいらっしゃるのかもしれません。オレゴン州は米国西海岸・ノースウエストに位置し、海・山・砂漠など多彩な自然に恵まれた州です。特にポートランドは豊かな自然に恵まれた美しい街であり、米国では「バラの都市」の愛称で親しまれています。自宅から車で西に約2時間走れば海岸線(Oregon coast)へ、東に約2時間走れば風光明媚な山・渓谷(Columbia riverやMt. Hood)につきます(オレゴン州公式日本語ガイドもご参考に)。7、8月には毎週末ドライブに出かけ、初めて見る大自然に家族全員感動するばかりでした(写真はColumbia riverの河口で、遠くには太平洋が見えます)。また、晴天の日には街中からもMt. Hoodの壮大な姿を見ることができます。

従来より日本との交流も深いこともあって、オレゴンの人々(こちらではOregonianと称します)は親日家が多く、予想以上に日本人が住みやすい土地です。こちらが日本人だとわかると、「日本に旅行するとしたらどこがお勧め?」と聞くスーパーのレジのおばさんや、「こんにちは」とあいさつする郵便配達のおじさん(海軍所属時代に横須賀在住)など、気さくな人が多いのには驚いております。現在、私達家族4人は研究所近くの住宅地に住んでいます。近所の人々は英語もろくにしゃべれない日本人に対して、芝刈り機やソファを貸してくれたり、中古で買った机を修理してくれたり、小学校の必要物品を教えてくれたり、非常に親切で助かっています。渡米前に想像したアメリカ人のイメージとは異なり、オレゴンには親切で真面目な人が多いようです。先日お会いした在米20年の方も、ご自身の経験も踏まえ、他州と比べオレゴンはリベラルで親切なアメリカ人が多いとおっしゃっていました。

 半年が過ぎ家族一同こちらの生活にも慣れてきました。妻は日本でも実現しなかった運転免許取得に成功し、2人の子供達も頑張っています。車を運転できないと身動きがとれない土地なので、妻には免許を取ってもらいました。とはいっても私が週末に我流で教えていたので、日本で運転経験のない妻にとってはさぞかし大変だったと思います(教えたのはブレーキとアクセルの位置、シグナルの出し方および度胸ぐらいだったのかもしれません)。また、「小学校にはESL(英語を第2言語とする子供向けの授業)があるのだから大丈夫だ。」という私に対し「だって先生の説明も英語だからわかるわけないよ」といっていた子供達も、最近アルファベットと簡単な単語を覚え、以前よりはアメリカ生活を楽しんでいるようです。

海外生活は家族4人にとってきっと貴重な体験になるものと考えております。また、米国の文化にも触れ、留学生活を実りあるものにしたいと思っております。最後になりましたが、今回の留学に際しお世話になりました方々に御礼を申し上げます。

2004年11月

Back to top