研究

海外留学

森定 徹(平成9年卒)

Department of Anatomy, University of California, San Francisco

私は、2009年4月よりカリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco : UCSF)の解剖学教室においてリサーチフェローとして約1年間、研究留学をさせていただきました。(現在は国家公務員共済組合連合会 立川病院に勤務。)

UCSFのあるサンフランシスコは、アメリカ合衆国の西海岸、カリフォルニア州の北部に位置しており、ロサンゼルスとならんでアメリカ西海岸の代表的な都市です。一年を通して穏やかな気候に恵まれ、美しい丘陵地帯、ビクトリア建築の住宅、ゴールデンゲートブリッジ、ケーブルカー、夏期の霧など、とても魅力のある風光明媚な場所であることから、世界有数の観光都市になっています。さらにアメリカ国内での評価も、住んでみたい場所のランキングでは常に上位にランク付けされる素晴らしい都市です。また一方では、ヒッピー文化やゲイカルチャーなど、民族と文化の多様性を許容するリベラルな性格を持ったグローバルな都市でもあります。

今回留学先としてこちらを選んだのは、UCSFの解剖学教室のマクドナルド教授の主宰する研究室で行われている血管新生に関する研究に以前から興味を持っており、いつか機会があれば血管研究のパイオニアである同教授の下で研究生活を送ってみたいという思いがあったからです。同研究室は、マウスの組織を使ったin vivoの解析手法により、病態における血管新生のメカニズムや、発生期の血管発生の仕組みについて、これまでに多くの論文を発表していました。大学院博士課程のときに、個体発生や病態形成に必須である血管新生やリンパ管形成の研究領域に魅了され、実験を行ってきた自分にとって、腫瘍や炎症におけるマウスの血管新生モデルを用いて行われる研究手法はとても魅力的であり、臨床への研究の応用も含めて将来にきっと役に立つと考えました。

ただ実際に留学生活を始めてみると、まず研究云々以前に日常生活のレベルでコミュニケーションをはじめとして思い通りに行かないことが想像もできないくらいたくさん待ち構えていました。私の場合、渡米した当初は、前任者も日本人の知人も誰もいない状況でしたので、アパートの賃貸契約や銀行口座の開設など、私のこの英語で本当に通じているの?これで契約してほんとに大丈夫なのかなあ?など一人でずいぶん心細い思いをしながらのスタートでした。

そうした中、たまたま実姉の知人の知人という遠い縁から知り合いになれたUCSFにすでに留学中だった日本人医師のご夫妻には、初対面であったにもかかわらず、日々の食事のことなど身の周りの事から実務的なことまで、惜しみなく何から何まで親切に手助けをしてくださり、本当にお世話になりました。言葉にできないくらい感謝しています。日本人留学生の方々や研究室の同僚のサポートのおかげで、遅れて渡米した私の家族も日常生活を成り立たせることができました。

慣れてきてからは、西海岸のゆったりした豊かな時間の中、日本ではなかなか持てなかった家族とゆっくり過ごす時間も取れるようになりましたし、カリフォルニアワインを吟味してみたり、車でハイウェイを飛ばしてヨセミテ国立公園やロスのディズニーランドに行ったのはとても楽しい家族の思い出になりました。留学期間を通して言葉の壁や文化の違いに直面しながらも、私の支えになってくれた家族にはとても感謝しています。また、留学中にお世話になった方々とは、帰国後も家族ぐるみのお付き合いが続いており、日本での立場を超えた交遊の幅が広がり、人生観が豊かになったのはとても良かったことです。

研究室の方は、留学前に想像していたより意外に地味な研究スタイルでしたが、やはり、アメリカ(UCSF)だからこそ入手できる貴重な新規血管新生阻害剤や、マウスの実験モデルを使って、自分自身の手で実験できたのは、とても貴重な経験になりました。また、研究室のボスや同僚とのやり取りを通して、「どんな細かいテーマでも個々の実験に対して仮説を立て、計画に沿って実験を遂行し、その結果について充分な解析、議論を行って、周囲を納得させるだけのクオリティーのあるデーターと導きだされるlogicを完成させていく」という研究者として基本となる真摯な姿勢をじかに体験できたことは、私にとってとても勉強になりました。貴重な時間を過ごさせていただいたことをボスと研究室の方々に感謝しています。

最後になりましたが、この私の留学についてお力添えをいただき、貴重な機会を与えて頂いた教室の吉村泰典教授、青木大輔教授、同学発生分化生物学教室の須田年生教授に深謝いたします。また、このマンパワー不足の中、暖かく見送ってくれた教室のみなさん、さいたま市立病院の先生方、お世話になったすべての方々に御礼申し上げます。

この留学で、直接目に見える形でないものもいっぱいありますが、自分の将来にとって大切な糧となるものをたくさん得られた気がします。少しでもお世話になった方々に貢献できるように、これからも精進して行きたいと思います。

2010年11月

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