研究

海外留学

増田 健太(平成17年卒)

MRC Weatherall Institute of Molecular Medicine
Nuffield Department of Women’s & Reproductive Health
University of Oxford, UK

2016年10月より英国オックスフォード大学MRC Weatherall Institute of Molecular Medicine, Nuffield Department of Women’s & Reproductive Health、Ahmed Ashour Ahmed教授の下で博士研究員として研究留学させていただいております。

オックスフォードはイングランド中央部に位置し、ロンドンから車で北西に1時間半程の距離にあります。英語圏における最古の大学であるオックスフォード大学を中心として発展してきた学園都市です。そのため街の中心部には大学関連の施設や歴史的な建造物が多くあります。中心部から少し歩くとロンドンへと流れるテムズ川があり、その周囲の湿地帯には野生の牛や馬が生息する風光明媚な場所でもあります。

オックスフォードの中心部から東に少し離れた場所に、大学病院と医学系研究所があり、私はそちらの研究所に勤務をしております。私が所属するAhmed研究室は卵巣癌の基礎研究を専門に行っている研究室で、細胞株を用いた解析に加え、臨床検体を用いたゲノム解析、3次元培養といった幅広い手法で卵巣癌にアプローチをしています。ボスであるAhmed教授は、現在も大学病院で診療を行う産婦人科医でもあります。産婦人科医ならでは視点から研究を開始し、何か興味深い結果が得られたら、そこを深く掘り下げていくというスタイルで研究を進められています。研究室は国際色が強く、現在イタリア、スペイン、ドイツ、エジプト、イラン、サウジアラビア、中国、マレーシアからのポスドク、学生に、日本人である私、と多彩な国籍の人々で構成されています(なんとイギリス人がいません)。皆とても個性が豊かで、毎日刺激的な日々を送っております。イギリスでは9時~17時までしか働かない、とよく言われていますが、私のラボは研究熱心な同僚が多く、平日は遅くまで、時には土日も研究をしています。

留学に至った経緯ですが、私自身これまで海外留学へは漠然とした憧れはありましたが、大学院で基礎研究を学んでいるうちに、海外の一流研究者がどのように研究をすすめているかを実際に見てみたいと思うようになりました。また教室員の先輩方が留学先でご活躍する姿を目にし、さらに強い希望へと変わりました。幸運にも大学院中にご指導いただいた先端医科学研究所遺伝子制御部門 佐谷秀行教授より、現在お世話になっているAhmed教授をご紹介していただきました。Skypeでのインタビューの後、受け入れて頂くことが決まりましたが、やはり給料は難しいとのことでした。イギリスは給料の保証がなければ労働ビザが発行されません。それからは海外留学のフェローシップに応募し続ける日々でした。フェローシップの取得はとても厳しいものでしたが、幸い一つのフェローシップに採用され、無事ビザを取得し渡英することができました。

留学開始の時期と次女の誕生の時期が重なったため、当初は私一人での渡英となりました。慶應病院での妻の出産に際しては、田中教授、宮越先生には大変お世話になりありがとうございました。その後2歳の長女と生後4ヵ月となる次女を連れて再渡英し、家族4人での生活が始まりました。初めの1年は、研究生活+生まれたばかりの子供を連れた海外生活と、毎日を過ごすのが精一杯の状態で、留学生活を楽しむ余裕もありませんでした。その後、子供の成長とともに少しずつ生活にも余裕ができ、現在は改めて素晴らしい環境に留学をさせていただいた事の喜びと感謝を日々感じております。

またイギリスへ留学し、実際に現地で生活をしたことで、イギリスの医療についても知ることができましたので、最後にご紹介させて頂ければと思います。イギリスではNHSという国営の医療保険制度により、無料で医療を受けることができます。子供や妊婦に対しては、薬剤費も無料となります。NHSでは、医療コストを削減することが重要視されているため、できる限り無駄が排除されています。例えば、風邪や軽い症状で医療機関にかる必要はないという考えが啓蒙されており、そのような軽い症状の場合は薬剤師に症状を伝え、薬を出してもらうことが推奨されています。そのため日本では医師の処方が必要な薬も薬局で購入することができます。また、アセトアミノフェン、NSAIDs、抗ヒスタミン薬など、需要の高い薬剤は日本より安価に購入することができます。風邪以外の場合には、GP(General Practitioner)という、かかりつけ医へ電話で予約を取り、受診することになります。完全予約制のため待ち時間が少なく、風邪での受診患者が少ないため、比較的快適に受診ができます。無料診療のため、会計で時間を要することもありません。その一方でコスト削減が重視されるあまり、医療資源が限られていることによる弊害もあります。例えば、CT等の画像診断が必要な場合でも、よほどの緊急性がない場合には、数か月待ちが普通です。こちらにはCTを撮る前に病気が治ってしまっているという笑い話があるくらいです。

出産に関しても、妊婦健診から出産費用まで、全てNHSでカバーされるため無料となります。合併症などがない限り、基本的に助産師が全てを担当します。超音波による診察は、NT計測を含めた初期スクリーニングと、希望者のみ妊娠20週前のスクリーニングを受けることができます。それ以上の検査・診察を望む場合には、自分でプライベートクリニックへ行き自費での診察を受けることになります。実際には、多くの妊婦さんは、NHSでカバーされる最低限の診察だけでは不安のため、プライベートクリニックを併用している場合が多いようです。

NHSは私達家族のように留学での長期滞在者も対象となるため、最低限の医療を無料で受けられることは、こちらで生活する上で非常に安心感がありました。しかしながら必ずしも患者の希望通りのスケジュールで検査や手術の日程が進まないなどの弊害もあると感じました。ただ費用対効果をしっかりと検証した上で、無駄を排していくという姿勢には、学ぶべきところが多くあると感じました。

最後になりますが、この度の留学に際しまして、貴重な機会を与えて頂きお力添えを頂きました青木大輔教授、田中守教授、阪埜浩司准教授に心より感謝申し上げます。また暖かく送り出してくださった教室員の先生方、さいたま市立病院の先生方、お世話になったすべての先生方に御礼申し上げます。

2019年5月

オックスフォード

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