研究

海外留学

西尾 浩(平成15年卒)

The Bloomberg Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy, The Johns Hopkins University, Baltimore

米国での研究留学を終えて

私は2015年8月より3年間、米国ボルチモアにありますジョンズホプキンス大学に研究留学をさせていただきました。まず初めにこのような貴重な機会をお与えくださいました、青木教授、先端医化学研究所河上教授(現国際福祉大学教授)、田中教授、さらに教室員の方々に感謝の意を述べさせていただきます。記憶も徐々に薄くなってきておりますが、今後留学を考えている後輩の方々のためにも私の経験が少しでも参考になれば幸いです。

1. 米国での研究生活
私は留学する機会を得た時、すでに30代後半の年齢になっていました。この年齢ですと研究者では自分の研究室を運営する人も多く、ポスドクとして留学することに少々躊躇いましたが、世界の科学を牽引する米国のシステムは日本と何が違うのか、また腫瘍免疫学をもう一度本格的に学び直してみたいという動機から決断しました。
留学の準備・現地での生活に関しては、今や様々な情報がネットを中心に得られ、以前と比較してはるかに留学生活を始めやすい環境にあると思います。ただ「どの」研究室に所属するかということに関しては、あらかじめ見学をし、ボスとの面談などを事前にやったとしても実際に働いてみるまで分からないため、自分の興味がある分野の研究室を吟味・選択し、受け入れが決まったらまずは留学を始めてみることが大事だと思われます。
実際に研究をはじめてみるとその進め方に関しては当然ながら万国共通であり、自分で科学的に意味のある疑問に基づいて調べ考え、立案実行するという言葉にしてしまうと簡単な流れで進んでいきます。この点での日米の差はありませんが、私の様な臨床ばかりをやってきた者には何より困難を極めるところであります。米国に留学したからと言って最初から魅力的なテーマが与えられ、周りから適切なアドバイスが自動的にもらえる訳ではなく、むしろ自分から動かないと何も得られないため、大学院生に戻った気分でイチから文献を読むところから始める必要がありました。その意味で、指導頂いたPardoll博士やYu博士には研究に対する姿勢を随分と教えられました。彼らは「自分で調べて論理的に考え、無駄な研究をしないように緻密に計画を立て実行し、得られた結果と真摯に向き合う」という科学に限らず学問をやる上での根本的なプロセスを地道に繰り返していました。米国だからと言って放っておけば素晴らしい研究生活を送れるわけではなく、研究をやる上では、常に学びながら試行錯誤を繰り返し続けていくこと以外に方法はないということを痛感致しました。

2. 競争社会を垣間見て
日米の圧倒的な差は単純に言えば「国力」の違いとなってしまいますが、この「国力」を生み出す源泉となっているのが、絶え間ない競争にあります。もともと移民が生み出した国家において、年齢や性別と関係なく能力のある人材を評価する風土に世界中から優秀な人材が集まり、その中で生き残っていくための競争です。また女性の進出は比較にならないほど進んでおり、学会や会議の中心メンバーが半数以上女性であること、場合によっては全員女性であることは当たり前で、このことは競争にさらに拍車をかけています。
もう一点は柔軟なシステムにあります。例えば医学研究においては、臨床検体を使った研究は必要不可欠ですが、基礎研究者と臨床医が協力し無駄なく研究を進めていくシステムは法整備も含めて整っており、何らかの障害がある場合はルール自体をすぐに作り変えていきます。ただし、州によって法整備などが異なるため、そのために研究が進みにくい場合はすぐに研究する場所を変える流動性も当たり前の環境です。日本でもトランスレーショナルリサーチの体制はかなり整えられてきておりますが、米国ほどのシステムの構築は難しいとしても、さらに拡充していく必要があると思います。

3.若い先生方へ
米国において日本人留学生はアジア人の中でも圧倒的なマイノリティーとなっており、中でも中国からの若い留学生の多さには驚かされました。米国のアジアへの意識も完全に中国が中心となっており、経済のみならず科学の分野でも日本は完全に追いかける立場になってしまったことを改めて意識させられました。これから日本の医学・科学を支える若い先生方はぜひとも早いうちに挑戦し、競争にさらされ、それを自分の糧にしていってほしいと思います。そのエネルギーこそが日本の医学を支えることにつながるのだと思います。
最後となりますが、この留学にあたりお力添えと貴重な機会を与えていただいた青木教授、河上教授、田中教授に深謝致します。また、見送ってくださった教室員のみなさま、家族、お世話になったすべての方々に心より感謝申し上げます。

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