婦人科腫瘍研究室 臨床腫瘍・臨床遺伝部門

代表:
平沢 晃 講師(Akira Hirasawa, M.D. Ph.D.)
冨永 英一郎 講師(Eiichiro Tominaga, M.D. Ph.D.)
部門:
臨床腫瘍・臨床遺伝部門

婦人科がんに対する個別化医療および新規治療開発、遺伝性腫瘍に対すsるがん予防を主なテーマにしています。
Translational researchでは、臨床現場での実用化を目指します。Clinical researchでは、治療ガイドラインに貢献できる質の高いエビデンス作りを目指します。
当研究室では婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、内視鏡技術認定医および臨床遺伝専門医などの育成や、女性健康維持研究室とも連携して、女性ヘルスケア専門医の育成にも力を入れています。

基礎研究/Translational research

1.婦人科がんprecision medicineの推進

当研究室ではバイオバンク部門(Keio Women’s Health Biobank:KWB)のヒト試料のオミクス解析データを臨床情報とともに読み解くことで、がんの診断、治療および予防に直結する研究を行っています。ゲノム解析・リキッドバイオプシー・薬剤感受性試験など、複数の国内外の研究グループとの共同研究を推進しています。

2.上皮-間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT))を標的とした新規がん治療の開発

子宮体部癌肉腫の肉腫成分はEMTとされ、癌肉腫はEMTを可視化できる貴重な腫瘍で、転移浸潤のモデルとなる。我々は癌肉腫のオミックス情報より、癌肉腫は癌より肉腫に類似していることを見出し、新規EMT関連遺伝子候補を抽出している。当該遺伝子の機能を解析し、新規EMT関連遺伝子を同定する。

所属スタッフ一同
所属スタッフ一同(平成29年2月現在)

3.新規バイオマーカー検索

癌患者においては、癌の進行にともない血清中や腟分泌物中に遊離DNA量が増加すると報告されています。我々は卵巣癌および子宮体癌で、特異的にメチル化されている遺伝子部位を探索しており、それが血清や膣分泌物によるスクリーニングに有用か解析しています。また、分子標的治療薬はその毒性や効果は遺伝子情報に関与することが知られており、卵巣癌や子宮体癌に有効性が期待されている分子標的薬の関連経路の異常を臨床検体および細胞株で探索し、また効果予測可能なバイオマーカーの同定を試みています。

4.腫瘍-間質相互作用の解明

腫瘍特性を規定する因子として、腫瘍細胞だけでなく間質細胞も重要である。我々はこれまで、卵巣がんおよび子宮体がんの腫瘍実質と間質をmicrodissectionで分離後、それぞれで発現解析を施行し、腫瘍-間質相互作用の側面から薬剤感受性および再発と関与する遺伝子を選別し、その一部は特許申請した。現在、当該遺伝子の機能を解析するとともに、体癌の再発を予測できる診断システムを開発している。

日本学術振興会(JSPS)とスウェーデン研究・高等教育国際協力財団(STINT)研究交流会議~卵巣がんにおけるcirculating tumor DNA (ctDNA)を用いた早期診断
AMED戦略的国際科学技術協力推進事業日本-フィンランド研究交流
フィンランド側チームの開発した大画面タッチ方式のDigital pathology装置
(平成27年度)

5.婦人科がん化学療法の効果および毒性の早期予測システムの開発

がん個別化医療への応用をめざし、婦人科がんに対し標準的に用いられるタキサン+プラチナ療法を中心に、抗がん剤の効果および毒性を早期に予測する手法の開発に取り組んでいます。遺伝子発現のみでなく細胞機能の変化を網羅的に解析可能な技術である“細胞アレイ”を利用して、抗がん剤の効果を予測できる標的遺伝子の探索を試みています。さらにゲノム薬理学の手法を用いて、抗がん剤の反応に関与する一塩基多型(SNP)の抽出も進めています。

臨床研究

1.若年性子宮体癌の子宮温存療法(黄体ホルモン療法)

我々は、若年子宮体癌患者に対し、高用量黄体ホルモン(酢酸メドロキシプロゲステロン、MPA)療法により女性の生殖機能を温存する治療を行っています。現時点で250症例以上に実施し多数例で妊娠に至っており、本邦でトップクラスの臨床経験を有しています。豊富な臨床経験を元に、本治療に関する臨床病理学的因子との関連を後方視的に解析するとともに、分子生物学的手法による治療効果判定や再発の早期発見を志向した研究を行っています。

2.早期子宮体癌に対するセンチネルリンパ節ナビゲーションシステムの確立

原発巣の癌組織からのリンパが最初に流入するリンパ節であるセンチネルリンパ節(SN)は種々の癌種でその同定に臨床的有用性があると言われています。我々は、主に子宮体癌において最適なSNの同定法(ラジオアイソトープ法、色素法、蛍光法)および診断法(免疫組織化学染色、捺印細胞診など)を研究しております。
SNに転移がない場合、リンパ節郭清を省略することが可能か検証する臨床試験も計画しています。

SPECT-CTで同定されたセンチネルリンパ節
SPECT-CTで同定されたセンチネルリンパ節

3.遺伝性腫瘍に関する研究

婦人科腫瘍の一部は遺伝性腫瘍としての性格を有しています。我々は臨床遺伝学センターなどと共同で遺伝性婦人科癌に関する研究と臨床を行っています。遺伝カウンセリングの後に、希望例に対しては遺伝学的検査や、リスク低減手術を行っています。遺伝性腫瘍に関するコホート研究を構築するとともに、国内外のデータベースに対するデータシェアリングに寄与することも目指しています。さらに女性健康維持研究室と共同してリスク低減手術後の女性QOLの課題についても取り組んでいます。

4.腹腔鏡下手術と低侵襲治療の確立

本学の医学教育統括センターに設置されている 臨床医の解剖学教育および研究施設であるClinical Anatomy Laboratory (CAL)において、未固定献体を用いた腹腔鏡下手術シミュレーションを重ね、高難易度の腹腔鏡下手術の安全な導入を推進しています。子宮体癌に対する腹腔鏡下手術においては、センチネルリンパ節ナビゲーション手術を応用したさらなる低侵襲手術に向けた研究を進めています。

5.がん薬物療法と臨床試験

臨床の現場から出たクリニカルクエスチョンに答える臨床研究や、分子標的治療薬などを用いた新規治療の開発を目的とした前向き臨床試験に積極的に取り組んでいます。がん薬物療法では科内のリーダー的役割を担うとともに、企業治験の受託、他診療科との連携も進めています。JGOG(婦人科悪性腫瘍研究機構)、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)、NRG Oncology (Gynecologic Oncology Group)といった多施設共同臨床研究グループにも当教室の代表として参画しています。

【References】
英文業績