婦人科腫瘍研究室 遺伝子制御部門

代表:
阪埜 浩司 講師(Kouji Banno, M.D. Ph.D.)
部門:
遺伝子制御部門

1.子宮内膜癌に対するエピゲノム研究

我々はこれまでに子宮内膜細胞診検体を用いたメチル化特異的PCR法(MSP解析)を用いて、DNAミスマッチ修復遺伝子(MMR遺伝子)の中でもhMLH1遺伝子の異常メチル化が高率に、かつ癌化の早期である異型内膜増殖症の段階から生じており、子宮内膜癌の発癌にgeneticな異常だけではなくDNAの異常メチル化といったepigeneticな変化(epimutation)が重要なイベントであることを見出しました。さらに若年子宮内膜癌患者の末梢血由来DNAのMMR遺伝子についてMSP解析を行い、MMR遺伝子のepimutationが発癌に関与する可能性を明らかにしました。現在は、新たに登場した次世代シークエンサーを用いた全ゲノムバイサルファイトシークエンスを用いて、子宮内膜癌の発癌機構の解明によるリスク診断への可能性を検討するとともに、子宮内膜癌に対するDNAメチル化制御による新たなエピゲノム治療薬の可能性とその標的分子の探索を行っています。

子宮内膜癌に対するエピゲノム研究

(図)epimutationによる発がん機序と、子宮内膜細胞診検体における各種遺伝子の異常メチル化の頻度

2.遺伝性婦人科癌に対する研究

我々はこれまでに家族性腫瘍としての子宮体癌の実態および臨床病理学的特徴について調査を行い、当院で治療を行った子宮体癌の約0.5%にリンチ症候群が存在していることを明らかにしてきました。また子宮体癌の発生部位とリンチ症候群と関連についての報告を行っており、家族性子宮体癌の早期発見や早期治療を目指して精度の高い臨床診断基準やサーベイランス法についての検討を行っています。
なお当研究室では日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医取得も目指します。

3.婦人科腫瘍に対するドラッグリポジショニング研究

新規創薬にあたっては従来からの開発手法では限界があり、近年では既存薬を薬理機序に基づいて新しい疾患に用いる、いわゆるドラッグリポジショニングが注目されています。我々は脂質異常症治療薬スタチンに着目し、動物レベルで副作用を認めることなく卵巣癌の発生や進行を抑制することを明らかとしました。また、その効果はアポトーシスやオートファジーといったプログラム細胞死が関与しており、スタチンが抑制するメバロン酸合成経路の下流から枝分かれする部位が作用経路であることも見出しました。また、糖尿病治療薬メトフォルミンに注目し、第四世代黄体ホルモン剤との併用で、単剤では効果のない低濃度で子宮体癌細胞の増殖を抑制することも明らかとしています。今後はこれらの成果を実際の臨床現場に還元することを目指して、臨床試験を見据えて基礎的研究をさらに進めていきます。

婦人科腫瘍に対するドラッグリポジショニング研究

A: 生後3週から8週までスタチンを連日投与されたmogp-TAgマウスの卵管組織。スタチン製剤を投与しないマウスでは青矢印で示したような漿液性卵管上皮内癌(STIC)を認めるが、スタチン製剤を投与したマウスでは明らかな病変を認めない。

B: ヒト卵巣癌細胞(左; SKOV3-IP、右; OVCAR5)を移植したマウスで形成された腫瘍の大きさの比較。青線で示されたスタチン製剤を投与しないマウスと比較して、赤線で示されたスタチン製剤を投与したマウスでは腫瘍の進行が抑制されている。

4.子宮性不妊症に対する妊孕性再建を目指した子宮移植研究

近年、生殖補助医療の技術が発達し、生殖補助医療技術を用いた妊娠、出産は増加しています。その一方で、子宮腫瘍や分娩後出血などで子宮摘出を余議なくされたり、先天的に子宮や腟を欠損するロキタンスキー症候群のような子宮性不妊女性にとって挙児は不可能であるのが現状です。我々は、近年の生殖補助医療技術、臓器移植技術、血管吻合技術、組織保存技術の発展に着目し、これらの技術を統合することで、「子宮移植」による妊孕性再建という新たな生殖補助医療技術の可能性を探るべく研究を行っています。世界でも子宮移植研究は進められ、子宮移植後の出産も報告されております。我々の研究グループは霊長類動物において子宮自家移植後の妊娠・出産、子宮同種移植後の月経回復を世界で初めて報告しました。しかしながら、基礎研究だけでなく、倫理面における課題も多く残されており、社会との対話を重ねながら研究を進めています。現在、慶應義塾病院での診療科横断的な子宮移植ワーキンググループを設立し、国内初の臨床研究実施に向けた準備を進めています。

子宮性不妊症に対する妊孕性再建を目指した子宮移植研究

5.婦人科骨盤内膿瘍に対するMR Spectroscopyの臨床的有用性の研究

婦人科骨盤内感染症の治療は、膿瘍の穿刺ドレナージ、抗菌薬投与を原則としますが、体の深部にあるため、穿刺の必要性の判断は慎重を要します。これまで、膿瘍が疑われる例では、CTやMRIなどの画像検査を施行していましたが、Magnetic resonance spectroscopy (MRS)という撮像方法で追加情報を得ることで、穿刺することなく、原因菌の推定ができる可能性があります。MRSとは核磁気共鳴現象を利用したもので、共鳴信号のピークパターンを解析することで、特定の領域内において特定の物質の有無を推定できます。我々は、当院放射線科と協力し、骨盤内感染において、MRSと培養の結果を照会することで、その精度を測るとともに、臨床経過を比べることで、撮像によって治療に対する判断に有益な情報が得られるかの検証を行っています。

婦人科骨盤内膿瘍に対するMR Spectroscopyの臨床的有用性の研究

左:子宮頸癌術後症例の骨盤MRI。リンパ嚢胞が骨盤壁と直腸に囲まれている。

右:実際に膿瘍から取得されたMRS信号。5ppm(中央)のピークは水の存在を表す。2ppm付近のピークから、酢酸の存在が推定される。

6.新しい予防医療の構築を見据えたメタボローム解析研究

婦人科骨盤内感染症の治療は、膿瘍の穿刺ドレナージ、抗菌薬投与を原則としますが、体の深部にあるため、穿刺の必要性の判断は慎重を要します。これまで、膿瘍が疑われる例では、CTやMRIなどの画像検査を施行していましたが、Magnetic resonance spectroscopy (MRS)という撮像方法で追加情報を得ることで、穿刺することなく、原因菌の推定ができる可能性があります。MRSとは核磁気共鳴現象を利用したもので、共鳴信号のピークパターンを解析することで、特定の領域内において特定の物質の有無を推定できます。我々は、当院放射線科と協力し、骨盤内感染において、MRSと培養の結果を照会することで、その精度を測るとともに、臨床経過を比べることで、撮像によって治療に対する判断に有益な情報が得られるかの検証を行っています。

新しい予防医療の構築を見据えたメタボローム解析研究

(図)78種の血漿代謝物すべてを用いたPLS-DAモデルによる判別分析結果。
閉経後女性のMetabolic syndrome(MetS)群(赤)とnon-MetS群(緑)では、血漿メタボロームに一定の差異があることが示された。